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ジョグナ・アガルタ

婚約者(♂)と別れ、元カノ(♀)と復縁しました。
手を握る攻防戦 (復活愛22)
観光名所を観て回り、名物を食べ、
今回最大の目的地である展望台に着いた時には夜9時を過ぎていた。
ケーブルカーを降りた瞬間、横殴りに寒風が吹きつける。

私:「さっ、ぶーーーーい!!」

季節は冬、夜の山頂となると寒さはハンパ無い。
首を縮め、バッグを握った手をコートの袖に引っ込める。

ハ:「うっわ、さむっ! ここまで寒いとは思わなかった」

ハニーが慌ててダウンのジッパーを上げた。
一緒にケーブルカーを降りたカップルが抱きつくように寄り添いながら近づいてくる。
狭い通路なので端によって見送った。

ハ:「寒いなら暖めてあげようか?」

私:「は?」

振り向いた私の前に、ハニーが満面の笑顔で手を差し出す。

私:「・・・・・・ありがとう、でもバッグあるから! 早く行こう!」

満面の笑顔で断ると、一人展望台に向かって歩き出した。
慌ててハニーがついてくる。

ハ:「バッグ持ってあげようか?」

私:「ううん。大丈夫だよ」

ハ:「寒いだろ?」

私:「田舎育ちだから大丈夫!」

ハ:「はぐれちゃうよ」

私:「見失わないでねv」

ハ:「・・・・・・じゃあ、ポケット貸してあげる」

私:「あ、私のコートにもポケットあったわ」

持ち手を無理やり腕に通し、ポケットに手を隠す。

ハ:「そーだねー・・・・・・」

あからさまにがっかりした顔のハニーが可哀想やら可愛いやらで笑えた。
手を繋ぐのが嫌なんじゃない。
期待させるのが嫌なのだ。

今の私にはハニーを受け入れることはできない。

まだ迷いは消えていない。

それなら自分の欲望のままに行動して結果ハニーを傷つけるより、

ハニーに諦められる方が良かった。




たとえ、将来どんなに後悔することになったとしても。
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ドライブ旅行 (復活愛21)
あの日から1週間後、私たちを乗せた車は高速道路をひた走っていた。

私:「けっこう観光地あるんだね~」

助手席でハニー持参のガイド本をめくりながら唸る。

ハ:「行きたい所ある?」

私:「あるけど、どれも場所がけっこう離れてるんだよね。
   今日の本命はどこだっけ?」

ハ:「市の端っこじゃなかったかな。
   夜景は午後8時頃が一番綺麗らしいからそれまでに行きたいな」

飲みに行った時にハニーに誘われたのだ。
「夜景を見に行こう」と。
あんな事があったので流れてしまうかと思ったが、ハニーは約束通り迎えに来てくれた。
車内の雰囲気も今までと変わらない。
ただ、私の両手は常にガイド本でふさがれていた。

私:「じゃあ市街地のここから観て、色々まわりながら市内に入ろうか?」

ハ:「そうだね。ナビしてくれる?」

私:「了解です」

この旅が決まった時からずっと気になっていたことがあった。
それは、

『ホテルをどうするのか』

うちから夜景スポットまでは高速道路を使っても片道4時間はかかる。
夜景を見ていたら、帰宅時間は12時を軽く過ぎるだろう。
でもハニーは明日も夜勤だし、無理してでも泊まらずに帰るつもりかもしれない。
旅行の話が出てから一度も「どこに泊まろうか?」って話も出ていないし。

そっとハニーをうかがう。
夜勤明けでそのまま迎えに来てくれたその横顔は、どことなく疲れて見えた。

私:「きつかったらいつでも代わるからね」

ハ:「ありがとう。でもまだ大丈夫だよ」

運転を代わらないのは見栄か、意地か、優しさか。

私:「ねぇ、朝ごはん食べた? お腹空かない?」

ハ:「食べてないよ。ネロは食べた?」

私:「一緒に食べようと思って食べてないよ。次のサービスエリアでご飯にしよう?」

ハ:「了解です」

代わらないなら休ませよう。

私:「うどんが食べたいなー」

ご飯とみそ汁が収まったお腹を撫でながら、私は笑いかけた。
解らない (復活愛20)
ハ:「好きだからキスしたくなった。
   でもネロには彼氏もいるし断られて当たり前だった。ごめん。
   だからネロは何も気にしないで。忘れていいよ」

気にするなって、

忘れろって、

無理だよ・・・・・・
   
これは告白なのだろうか。
それとも昔を思い出して勘違いしてるだけだろうか。

それとも、またやりたいだけなのだろうか。

私はまだハニーの気持ちを疑っていた。
それほどまでに過去の傷は深い。
けれど今そんな事言ってもハニーをさらに傷つけるだけだろう。

黙り込む私に、ハニーが尋ねた。

ハ:「まだ帰らない?」

頷く私。

ハ:「シート少し倒してもいい?」

頷く。

ハ:「コーヒー飲んでもいい?」

頷く。

ハ:「コーヒー飲む?」

私:「・・・・・・ありがとう」

プルタブを起こした缶コーヒーを受け取り、一口飲む。
張りつき、喉を塞いでいた渇きがすぅっと通った。
すると、するりと言葉が出てきた。

私:「あのね、彼氏もハニーも裏切りたくなかったの」

ハ:「うん」

私:「ハニーをね、浮気相手にしたくなかった。
   ずっとね、好きだったから。フられた後も・・・・・・
   だから、ハニーとはそんな関係にもうなりたくなかった」

それが正直な気持ちだった。
ハニーの本当の気持ちは解らない。
けれど、たとえハニーが私をどう想っていようと、これが私の素直な想いだった。
疲れたようにハニーが頷く。

ハ:「うん・・・・・・」

私:「がっかりした? 怒った?」

ハニーが微かに笑った。

ハ:「怒ってはないよ。怒られるとしたらこっちだろ。
   がっかりはしたけど・・・・・・」

私:「ごめんね・・・・・・嫌いになった?」

ハ:「それはないよ」

ハニーが苦笑する。
それを聞いて嬉しいような残念なような複雑な気分になった。
ハニーがゆっくりと体を起こす。

ハ:「手、握ってもいい?」

私:「どうぞ」

遠慮がちに差し出された右手に左手を重ねる。
ハニーは私の指の間を割って強く握り締めた。
かと思うと力を緩め、親指で甲を撫でる。
アルコールが入っているせいか、ハニーの手は暖かくて気持ち良かった。

不意に、ハニーは手を持ち上げると甲にキスをした。

驚き固まっている私を上目使いにうかがう。

ハ:「ここもダメ?」

いたずらを見つかった子供みたいな顔に、思わず笑ってしまった。

私:「いいよ」

ハニーも小さく笑うと再び甲にキスをした。

その笑顔は、やはりどこか寂しげだった。

愚問 (復活愛19)
工場地帯にある川沿いの空き地に私は車を停めた。
暗く沈んだ工場は不気味で、そのおかげで人影はおろか車通りも少ない。
ハニーが訝しげに眉をひそめる。

ハ:「気にしないで帰っていいよ。明日も仕事だろう?」

私:「うん・・・・・・」

何から言えばいいのか、どう伝えればいいのか、
私は膝の上で組んだ手を見つめて言葉を探し続けた。

ただ、あのまま帰ったら二度とハニーに会えないと思った。

それは嫌だと思った。

だからここに来た。

それなのに言葉が出てこない。
沈黙に包まれた車内に、ハニーの小さなため息が漏れた。
どうしてため息?
不機嫌? 早く帰りたい? どうして?
こみ上げる不安と一緒に、一つの可能性が口をついて出た。


私:「酔った勢い?」


ハ:「は?」

ハニーが勢いよく振り返る。
私もその目を見つめ返した。

私:「さっきのは、酔った勢いで?」

それなら真剣に考えた私が馬鹿みたいだ。
ハニーを傷つけたと思った。
だからハニーはこのまま消えてしまうかもしれないと思った。
それが怖くて、変に誤解されたままさよならしたくなくて、考えて考えて――
それなのに、馬鹿みたいだ。

ハ:「違うよ。あれくらいで酔わない」

ハニーが深くため息をつきながら、再びシートに体を沈める。

私:「じゃあ何で」

ハ:「好きだから」

思わず、息が止まる。
ハニーの目が、私の目をとらえた。

ハ:「好きだから、キスしたくなった」
どうしよう (復活愛18)
時間にすればほんの数秒だっただろう。

月に照らされた鼻筋は白く透き通り、

薄く開かれた唇は彫像のように乾いて見えた。









「ダメっ」


自分の声に我に返る。


私はハニーの口を手で覆い、顔を逸らしていた。

抱きしめられた体が熱い。


「・・・・・・・ごめん」


ハニーがゆっくりと体を離す。
沈み込むように背もたれに体を預け、再び窓の外に顔を向けた。
私は早鐘を打つ心臓を押さえ、今何が起こったのかを繰り返し理解しようとしていた。

「信号青」

指摘され、正面を見るといつの間にか信号は青に変わっていた。
慌てて車を発進させる。

どうしよう、

どうしよう、

どうしよう、

震える両手でハンドルを握り締め、ゆっくりと車を進める。

どうしよう、

どうしよう、

どうしよう、

取り止めの無い疑問符が頭の中を駆け巡る。

どうしよう、

どうしよう、

どう


「気にしないでいいから」


唐突に思考が遮られた。

「え?」

思わずハニーを見る。
ハニーは相変わらず窓を向いたまま続けた。

「気にしないで。帰っていいよ」

感情のこもっていない、投げやりな口調。
けれどその声からは後悔が滲み出していた。
この一言で何をすべきか決まった。

「・・・・・・うん」

私は闇夜に向かってアクセルを踏み込んだ。
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